
カンデラ社は東京ビッグサイトにて開催された「第12 回オートモーティブワールド」(1月15日~17日)に出展し、自社開発製品である「Candera Link」のデモを初公開した。その他、同社が主力とするCGI Studio など自動車向けHMIソリューションを展示して注目された。
カンデラ社は、元々は半導体のソフトウェアを手掛けるインフィニオン・テクノロジーズの100%子会社「コムニオン」として2000年にオーストリアのリンツで設立された。途中、富士通グループやソシオネクストの子会社となる変遷を経た後、手掛けていた携帯電話(いわゆるガラケー)の衰退と共に次のステップとして同社は車載HMIに参入し、自動車業界で最初の組み込み3Dグラフィックエンジンの1つを開発。2019年2月にアートスパークホールディングスのグループ会社として、カンデラGmbHに社名を変更。同年6月には、日本を含めたアジア太平洋地域の開発営業拠点として(株)カンデラジャパンが設立されて現在に至っているという。
カンデラ社の従業員数はオーストリアに約50名、日本には約35名がおり、この約85名体制を伴い、研究開発と自動車メーカーへの営業を主体とした独立型ソフトウェアベンダーとして運営されている。その基本ポリシーは、組み込み市場向けに対して使いやすさで最高のパフォーマンスとオープン性を発揮するHMIソリューションを提供し続けることにある。
中でもカンデラ社が強みとしているのが、永年に渡って高い信頼性を獲得しているソリューション「CGI Studio」だ。これはハードウェアに依存しないHMIソフトウェア・プラットフォームとして、優れた拡張性を最大の特徴としている。オープン・アーキテクチャーの採用によって各企業が備えるワークフローへ統合化でき、その自動化までも可能としているのだ。しかも、あらゆる自動車のプラットフォームに適合するのはもちろん、高速起動や小フットプリントといった要件も満たす。これにより、あらゆる分野で魅力的かつカスタマイズ可能なHMIを開発できるというわけだ。
「CGI Studio」はこれまでに、トップ10社の自動車メーカーのうち8社が採用し、サプライヤの上位6社もこれを採用。これにより、このソリューションを使って誕生した車両は5,000万台にも及ぶという。その実績から見て、いかにその対応能力が高いかが理解できるだろう。
そして、注目なのが「第12 回オートモーティブワールド」でデモを初公開した自社開発製品「Candera Link」である。
これは、プラットフォームに依存しないデータとサービスを、複数のクライアント(IVI、Meter Cluster、AR HuD、スマートフォンなど)での共有を可能にするサービスに対応したソフトウェアのこと。例えば、インスタンス・リモート・レンダリングである。つまり、従来はそれぞれが高い処理能力を持つSoCを配置する必要があるが、この方法ならサーバー側に強力なSoCを持たせることで、ネットワーク経由でコマンドを送ってストリームするだけで処理できてしまうというものだ。これによって、コストやリソースを大幅に削減できるという。
この「Candera Link」はプロトタイプとして完成したばかりで、製品として実用化はされていない。しかし、同社によれば2020年末までには製品化し、今後の主力製品としていきたいとしている。
こうした製品をリリースしているカンデラ社は、以下の4つの大きな特徴を発揮できるという。
一つ目はスケーラビリティに長けているという点だ。ローエンドからハイエンドのシステムまですべてにリッチな表現ができており、これは高いパフォーマンスを発揮させられるだけの優れた能力を備えているからこそに他ならない。
二つ目は基本的なパフォーマンスの高さだ。自動車メーカーからは自社が持っているベンチマークと比較した報告例があるが、表示能力として60fpsがしっかり出ているところは高く評価されている。特にローエンド製品でもカンデラ社のツールを使うことで高度な表示が可能になる点は高く評価されているという。
三つ目はワークフローで強みを持っていることだ。従来の3Dフォーマットだと、デザイナーが懸命にリッチなデザインを描いても、組み込みの段階で100%反映できず、その合わせ込みの作業でプログラマーの負担が極めて大きかった。それがカンデラ社の「glTF」というフォーマットを使うと、簡単に実現できるようになる。その意味でプログラマーの負担軽減に大きく貢献することができるというわけだ。
四つ目の強みが、使いやすさにおいてユーザービリティが大きく改善されていることだ。操作はプログラマーでなくてもドラッグ&ドロップするだけで基本的なPoC(Proof of Concept)ができてしまう。そのため、デザイナーや開発者が差し替えたいコンテンツをインポートするだけで済み、ここで動きやコマンドを加えてシミュレーションして動作をチェックできるのだ。デザイン設計での手軽さは従来では考えられないほど手軽になっているという。
来日したカンデラGmbHの製品開発責任者であるローランド・ウィンクラー氏に、同事業の中核となっているHMIツールへの展開について今後の展望も含め、お話を伺った。
ローランド氏:
2000年に携帯電話セクターを起源としたカンデラ社は、すぐに自動車産業内のデジタル化の急速な成長に気付きました。さらに、革新的HMIを作成するため、強力で使いやすいツールに対するOEM(自動車メーカー)の高い需要を見出しました。よって2009年に、市場で非常に高い評価を得た「CGI Studio」の最初のバージョンをリリースしました。
ローランド氏:
カンデラ社は、自動車用ディスプレイの3Dユーザーインターフェイスの先駆者であり、急速な成長と持続可能な成功への道を開きました。車載3Dグラフィックス・エンジンを搭載した最初のソフトウェアは、当時、我々以外はこの世界には存在しなかったことを強調したいです。我々の経験を活かして、エンジニアだけでなくデザイナーにも注目し、クリック数を減らすことで、誰でも簡単に処理できるツールを作成しました。
デザイナーは豊かな創造性を持っています。しかし、今までは、それを直接反映する方法はありませんでした。デザイナーが豊富なアイデアをプラットフォームに迅速に転送できるように、ユーザーが使いやすいインターフェイスに基づいて「CGI Studio」でアイデアを簡単に表現し、幅広いターゲット・プラットフォームにビジョンを展開できるよう、デザイナーが迅速に処理できるユーザーインターフェイスを作成しました。
ローランド氏:
完全な創造性/クリエイティビティを実現するには、デザイナーは最初のスケッチからターゲット・プラットフォームまでの実証まで、アイデアをシームレスに操作する必要があると考えています。 「CGI Studio」は、Photoshop、3dsMax、Blenderなどの多くのグラフィックツールからのインポートを提供し、設計・ターゲット・アプリケーション間のギャップを埋めることが可能になっています。
ローランド氏:
時系列の同期は、通信デバイス間のリンクが必要になってきます。その解決できるツールとして役立つのが、「Candera Link」と呼ばれる新しく開発された製品です。
ローランド氏:
「CGI Studio」はHMI設計向けグラフィック開発ツールであるのに対し、「Candera Link」は、プログラミング言語、オペレーティング・システム、または場所に関係なく、複数のクライアント間のコミュニケーションを可能にするサービス指向ソフトウェアです。運用中に使用することにより、これらの問題を解決します。ポイントは、様々なソフトウェア間で通信できることです。つまり、「Candera Link」を使用すると、ディスプレイ間だけでなく、スマートフォンやディスプレイ、またはクラウドとも通信できます。
ローランド氏:
情報とあらゆる種類のコンテンツは、複数のデバイス間で共有、配布および同期できます。たとえば、エンターテイメント・システムのコンテンツをクラウドで受信し、インストルメント・クラスター、ヘッドアップ・ディスプレイ(HUD)、スマートフォン間で共有できます。これにより、柔軟性が向上し、ハードウェアコストが削減されます。
ローランド氏:
膨大のデータをレンダリングする際、5Gだともっと高速なサービとして提供が可能になるでしょうね。「Candera Link」は接続するサーバーに制限がないため、車内でローカルに、またはクラウドでリモートに、任意のサーバーに接続できます。
ローランド氏:
今、世の中では「ハイパーバイザー」環境を使用した集中コンピューティングが自動車のトレンドになりつつあります。典型的なセットアップでは、1つの強力なSoCがダッシュボード用のリアルタイムオペレーティングシステム(OS)とエンターテイメント用のLinux OSの両方をホストします。この場合、「Candera Link」により、複数のOS間でシームレスなコミュニケーションが、干渉なしで安全かつ信頼できる方法で可能になります。
我々が観察するもう1つの傾向は、車や他の車両内でのAR(拡張現実)の適用の拡大です。 ARヘッドアップ・ディスプレイにより、実際の環境に完全に溶け込む状況のビジュアルを動的に作成し適応することが可能になります。これにより、ドライバーの注意散漫が少なくなり、運転の安全性が高まります。
自動運転に関しては、特に今後数年間は、自動化された車両と運転手との間の相互作用が不可欠になります。さらに、HMIはドライバーとのスムーズで安全な通信を確保するだけでなく、複数のディスプレイと走行環境間のシームレスな同期も確保する必要があります。
ローランド氏:
現在、自動車業界と緊密に連携し、今後のためのARソリューションを実現できるようにしています。運転支援として、たとえばウィンドウシールドなどに、ドライバーの視界内の情報をより多く提供し、ARに基づいたソリューションの開発を現在実施しているため、このテクノロジーを搭載した最初の車が道路上を走行してるといったことが、すぐに期待できると思います。
カンデラ社は今後も優れたHMIに基づいたこれらのツールを自動車メーカーに提供することで、設計現場での効率アップに大きく貢献していく方針。そこで可能となった高度なテクノロジーは幅広い車種で反映され、最終的にはユーザーのメリットへとつながっていく。そんなカンデラ社の技術に今後も大いに注目していきたい。
text:会田肇
photo:雪岡直樹
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https://response.jp/article/2020/02/13/331639.html
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ニュースリリース:「第13回 オートモーティブ ワールド」に出展
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